改革は終わらない。利用者に向き合うことこそがサービスを生み出す

4. 街づくりに欠かせぬもの

■居心地のよさ

岩谷 最後にひとつ質問をさせてください。[urayoko net]という地域活性事業は街づくりに近いものだと思っています。郵便事業株式会社南関東支社長として、この街に対して期待していることや、こうしていきたい、地元密着でやりたいといったようなビジョンはありますか。

山崎 街は、人が住んでいたり、生活したり、働きにくるための場所ですけど、居心地がいい空間というのが、やはり街の魅力だと思うんです。どんなに人工的につくろうと思っても、居心地が悪ければ人は減っていくし、来なくなる。たとえば学校があるから通学していますという人もいると思いますが、通学しながらでもそこを通れば、ある意味で街を呼吸しているわけです。食べたり、飲んだり、買い物をしてみたり、なにかのイベントに参加してみたり。

街づくりというのは、人の生活と密接にリンクしているのかなと思います。木で竹を接ぐような話ですが、かつて通信を使って町おこしをしようという、郵政省ならではの部署にいて仕事をしたことがあります。その当時はまだ全国津々浦々で携帯電話が繋がらなかったんです。携帯電話のアンテナを乗せるための鉄塔を建てて町おこしをしようと……通信と町おこしになんの関係があるんだと私などは思ったりしましたが、ただ行ってそこで電話が繋がるかというのは、じつは結構大きいことなんですね。地下のお店でも繋がるかとか。まあ随分当たり前になってきましたが。そういうちょっと無理があるかなと思ったことでも、生活環境として馴染むことができれば意味があるんだと、いまは思わなくはないです。

じゃあ居心地のいい街をつくろうと思うと、どんな街ならいいのかという話になります。そのとき、この地域でこの街を元気にしていこうという方々が、自分たち自身でひとつひとつ前進をされていくというのは、とても重要だと思います。

■どんな街にしていきたいか

山崎 私は以前、裏原宿エリアに住んでいたんです。あそこはしっかりとした商店街の連合があって、お店の店主さんも結構お年だったりします。「あの店の前、結構汚れているけど、ひょっとして店長入院した?」「それなら俺たちで掃除しておいてあげよう」みたいな、そういった結束力が強いんですよ。ゴミの出し方からなにから、すごくルールがしっかりしている。新しい店舗が入ってきても、そのルールが守れないと出て行かざるを得なくなるような雰囲気さえあります。

着物や振袖をお貸しになるお店の店主さんとたまたま話す機会があったんですね。そのお店が裏原にあるのを知っていたので、好奇心から「あそこは結構うるさいでしょう」ということをいってみたら、「そうなんですよね、意外だった」と。ルールが厳しいと新規参入するには難しい側面がありますが、そのかわり、言い方は悪いですけど変な店舗が入ってこれないので街の雰囲気は壊れません。

裏原の店は夜9時になるととにかく閉店します。いまどきずいぶん早い閉店時間だけど、そのおかげで若者の溜まり場になることがない。いわゆる東京の他のエリアが持つ怖さがないんですよね。

裏原宿は脚光をあびて賃料が上がりました。人がいっぱい来るようになって、家賃も上がって、家をもっている人は実入りが増えたかもしれませんが、でも今度は逆に賃料が高くなりすぎてお店が出ていってしまう。そうすると家主は次の借り手を探さなければいけませんが、家賃が高くてなかなかいい人が見つからないとか。あるいはうれしい悲鳴なのかもしれませんけど、そういう環境ができていったら、今度はそれがまた前提になっていきます。

裏原宿界隈は週末ともなるとすごい人です。じゃあ、これが居心地のいい街なのかといわれると、それを選ぶ人もいれば選ばない人もいます。昔の裏原は少し寂れていて、竹下通りをこえたらちょっと静かになって、さらに裏原の方に入るともっと静かになる。でもなにかポツンポツンと、エッジのきいたお店があり、そこを目当てに来てという、そんな街だったんですが……若者にとっては、ますますエキサイティングな街になったけれども、私のような世代にとっては、もしかしたらちょっとやりすぎたかもしれませんね。私は引越したということもありますが、移って以来行っていません。

居心地のいい街がどんな街なのか、そこにどんな人が来てほしいのかをよくよく考えないといけませんよね。少なくとも、自分たちが行きたくなるような街づくりをしないと。郵便局としては協力させていただきますが、皆さんが「こういう街がいいよね」というビジョンをしっかりおもちになるとことがとても重要だと感じます。

岩谷 この街の課題かもしれないですね。

山崎 大変だと思います、街づくり。がんばってください。