4.人と人、地域と地域をつなぎ、文化を育む
■[urayoko net]3つの柱
岩谷 それともうひとつ、この街の文化をつくっていきたいなと思ったんです。なにもないところに人は集まりません。仮になにかがあったとしても、それがただ「そこにある」だけでは求心力にならない。そこに文化がなければ、人は集まらないと思ったんです。
平沼・高島エリアには歴史的な蓄積がありますし、とても豊かなリソースがある。人と人、地域と地域をつないでいって、この街にこれまで以上に活気が出てくるのと同時に、魅力ある店舗がまた自分たち自身を高め合って価値を生み出していく。それがきっとこのエリアの文化になっていくんじゃないかと。そうすれば、「裏横浜」という言葉はいまよりもずっと輝いた言葉になると思うんです。
魅力あふれる飲食店というリソース、企業も含めた地域住民、そして開国以来培われてきた歴史、この3つを融合するプロジェクトとして考えたのが、[urayoko net]なんです。
—— お話をうかがっていて、あえて東口を選んでお店を出している方も多いんじゃないのかなと。自分たちのこだわりのお料理やお酒を、自分たちのできる最高のパフォーマンスで提供しようとしたら、あまり多くの人には対応できないと思います。
岩谷 そういう方もいらっしゃると思います。横浜駅はあきらかに西と東とで様子が異なります。西口はチェーン店も多く、客層も若い世代が中心になります。そうすると、どうしても価格競争が強くなる。
東口はどちらかといえばオトナの街だと思います。ゆっくりお酒を楽しんだり、じっくり話をすることを好むお客様が多い。たとえば、特別な日に夫婦水入らず行くお店があったり、料理が評判の隠れ家的な居酒屋があったり。
—— まさに人と人が出会いつながれるような、特別な場所やお店が多い街なんですね。
■裏横浜をめぐるバスネット
—— 事務所を移転して[urayoko net]の準備をはじめられたわけですが、実際にやってみていかがでしたか?
岩谷 右も左もわからなかったです。それまでに経験したことのない領域でした。昔から馴染みのある街でしたけど、今度は新参者としてこの土地に入ってきたわけですから。だからいろんな人に会いに行ってお話をうかがいました。カメラマンの齋藤さんにも野毛の活性化イベントのお話を聞き、CDCに集まったクリエイターの人たちとはミーティングをしてどういうイベントにするかを話し合いました。そのときに出てきたのが[urayoko net]をどういう見え方にするかという課題で、そこからいまメイン・ヴィジュアルとして使っているバスのモチーフが生まれたんです。
なぜバスとバス停なのか。お話してきたように、人と人、地域と地域をつなげていくことがコンセプトのひとつです。バスはある地域から別の地域へ人を運んでいって、その先々で人が行き交ってつながっていく。そのあり方が[urayoko net]と似ていると思ったんです。
バスでいうと、バス停があってバスがありますよね。[urayoko net]では、バス停が店舗にあたる。そして店舗と店舗をつなぐのは人です。つまりバスが人ということになります。だから各店舗にバス停を置き、そこを人=バスがめぐる。そういう比喩表現として見せたかったというのがあって、バスのモチーフを使うことにしました。
—— [urayoko net]のトレードマークですよね。私はずっと都内に住んでいて、2年ほど前から横浜に移住したのですが、横浜は「バスの街」というイメージが強い。都内は基本的に電車移動で、とくに中心部に住んでいるとほとんどバスを使いません。ところが横浜に住んでみると、バスがかなり重要になります。路線も非常に多い。そういう意味でも、すごく横浜っぽいなと感じました。
それは図らずもなんですが(笑)。でも、そういっていただけるとうれしいですね。